昔ながらの商売の世界には、今ではあまり聞かれなくなった大切な言葉があるんです。それが「諸国客衆繁盛(しょこくきゃくしゅはんじょう)」。
商売繁盛といえば、自分の店や事業がうまくいきますように、という願いごとで、神社のご祈祷でも定番ですよね。
ところがこの「諸国客衆繁盛」は、自分ではなく、お客さんの商売繁盛を願うという、なんとも粋で懐の深い言葉なんですよ。
じんさんも長年いろんな商人と付き合ってきましたが、この言葉を大切にしている人って、やっぱり信頼されるんですよねぇ。
諸国客衆繁盛ってどんな意味?
これはですね、「自分と取引してくださる全国各地のお客さまの商売が繁盛しますように」という願いを込めた言葉なんです。
主役は「自分」じゃなく「相手」。そこがなんとも気持ちいいじゃありませんか。
商売繁盛とは心持ちがちょっと違う
一方の「商売繁盛」は、自分の商売が繁盛しますようにってお願いするものでしょ。
それはそれでありがたいことなんですが、どっちの願いに“美しさ”を感じるかというと、じんさんは「諸国客衆繁盛」にぐっときますねぇ。
実はね、じんさん、この言葉を最近まで知らなかったんですよ。お恥ずかしい話ですが。
神社でご祈祷をお願いするにしても、たいてい「商売繁盛」でしょ?
「諸国客衆繁盛でお願いします」って言う人、今どきどれだけいるんでしょうかねぇ。
最近はどうも、自分の儲けで頭がいっぱいな人が多いような気がします。
でも、昔の人は違ってたんですよ。
昔は「諸国客衆繁盛」が当たり前だった
たとえば、奈良の春日大社。そこには2,000基以上もの石灯籠があるんですが、近年の調査でこんなことが分かりました。
昭和57年になるまで、灯籠に「商売繁盛」なんて祈願文は刻まれてなかったそうなんですなぁ。
それ以前は、「諸国客衆繁盛」と刻まれた灯籠がポツリポツリとある程度。つまり、お客さまの繁盛を願うのが当たり前だったんですねぇ。
そういえば、じんさん、学生時代に商売人だった父からこんな話を聞いたことありました。
「商売というものはな、自分が儲ける前に、まず相手を儲けさせることを考えないかん。
相手を儲けさせれば、必ず自分のところにも儲けは転がり込んでくるから、覚えておけよ」ってね。
もちろん、自分が赤字を出してまで無理する必要はありませんが、「商売ってのは、自分の儲けだけを考えてやるもんじゃない」と教えてくれました。
相手を儲けさせた分だけ、自分にも返ってくる。そんな教えだったんだと思います。
「先義後利」という言葉、ご存じですか?
「義」っていうのは、人としての正しい道、「利」は、金銭や出世などの欲望を意味します。
欲に目がくらんで商売をすると、人をだましてでも儲けようとしてしまう。そんな商売は、いずれ信頼を失って、最後には破滅してしまう――これが「先義後利」という教えの根っこです。
じんさん思うんですがね、「諸国客衆繁盛」という言葉には、まさにこの「先義後利」の精神が宿ってると思うんですよ。
まずはお客さんのことを思って、正直な商品やまっとうなサービスを届ける。その結果、信頼が生まれ、やがて利益も自然とついてくる。
「諸国客衆繁盛」とは、ただの縁起担ぎじゃなくて、“相手を思う心が、自分の道をひらく”という、昔ながらの商売哲学の象徴なんですねぇ。
まとめ
「諸国客衆繁盛(しょこくきゃくしゅはんじょう)」と「商売繁盛」。
似ているようでいて、願いの向かう先がまったく違うんですねぇ。
商売繁盛は「自分」の繁盛を願う。
一方、諸国客衆繁盛は「お客さま」の繁盛を願う。
昔の人は、自分の利益の前に、まずは相手の幸せを願った。そんな優しさや誠実さが、商いの根っこにあったんですね。
現代では「商売繁盛」が主流になりましたが、たまには「諸国客衆繁盛」と唱えてみるのも、きっと商売の道を考えるいいきっかけになると思いますなぁ。
じんさんのひとこと
じんさん思うんですけどね――
どんな仕事でも、「自分のため」よりも「人のため」を先に考えたほうが、結果的にはいい流れが回ってくる気がするんですよ。
「まずは相手に儲けてもらおう」って、昔の商人の知恵は、今の時代にも通用する名言やと思います。
今度神社にお参りしたときは、そっと「諸国客衆繁盛」と唱えてみてくださいな。